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■対談■

ニッポン人よ!
 いまこそ「観光」に目覚めよう (1)

ケビン・ショート■エコロジスト、東京情報大学・環境情報学科教授
オーランド・カマーゴ■異文化エッセイスト、投資銀行勤務


こんなにも美しい日本の国。もっと観光しなければもったいない──。そう唱えるのは、ともに日本在住歴が長く、千葉・幕張にもゆかりの深い、ケビン・ショート氏と、オーランド・カマーゴ氏。
日本の文化や自然について一家言を持ち、それぞれ著書も記している両人が、東京湾岸、幕張、千葉、そして日本の観光文化に鋭くモノ申す。



ディズニーランド一色の東京湾の国際観光

写真
ショート■僕はいま、千葉ニュータウンという場所に住んでいて、東京からそんなに遠くないけれど、自宅から一歩出れば、千葉の典型的な農村生活がそのまま残っている。英語でいうところのカントリー・サイドがたくさんあるんですね。
 ニューヨークも1時間くらい離れれば、もうカントリー・サイドだけれど、じつは千葉だって、東京から40分くらいで、ものすごく豊かなカントリー・サイドがたくさん出現してくるんです。

カマーゴ■ニューヨークのすぐ隣りには、「華麗なるギャツビー」の舞台になったハンプトンという美しい高級別荘地がありますよね。ハンプトンは開発されたリゾートではなくて、自然と形成された地域でしょ。日本でいえば軽井沢が近いのかな。東京周辺のリゾートには、残念ながらああいう自然に形成された地域はほとんどないですね。

ショート■でも、幕張から稲毛の辺りは、明治期には外国人や文化人が集まる有名なリゾート地で、とても美しいところだったんですよ。
 いまでも千葉の湾岸には、江戸時代のなごり、面影はたくさん残っているんだけれどね。船橋には江戸時代からずっと魚を捕り続けてきた漁師たちの暮らしが続いていて、いまも小さな漁港が残っている。漁獲高もとても多いんですね。浦安、行徳あたりにも漁師町は残っているし、何百年も続いてきた暮らしの名残りをまだ見ることができますよ。
 東京湾は国際観光という点でも、ディズニーランド一色でワンパターンでしょう。ディズニーランドもいいけれど、こういう現役で暮らしを営んでいる日本人に触れ合えないと、観光としてはもう勝負にならない気がします。船橋、浦安にも、本当に昔ながらのカントリー・サイドの暮らしがたくさん残っています。まずこういうところを、千葉の人、東京周辺の人が楽しむようになって、日本の他の地域からも観光客がたくさん来て、ディズニーランドだけじゃなくて、千葉の観光を楽しんでもらうということにならないとだめですね。

カマーゴ■東京湾の海岸線は、人間と自然の共生という発想と正反対で開発されてきてしまった。

ショート■これほど殺風景な湾岸都市というのは、世界にも例がないんじゃないかな。

写真カマーゴ■世界的にみても、日本の港町というのは観光には最悪ですね。コペンハーゲンにしても、サンフランシスコのフィッシャーマンズワーフにしても、人と人のふれあいがあって、歴史や文化を感じたり体験したりできる。外国から日本に来る人たちは、海に囲まれた島国だから当然、港町に期待してくるんだけれども、期待は見事に裏切られてしまう。
 日本では少ないけれど、神戸とか長崎がいい港町ですね。もともと港を生かしてきた歴史があって、異文化があって、山と海を生かして街が形成されている。日本の沿岸地域は経済成長を優先し、産業を優先してきたけれど、これからの時代はもう違いますよ。幕張も、もともとはヨットハーバーの計画があったけれど、いまはちょっと止まってますね。

ショート■もともと東京湾というのは、港を作るのに適した場所じゃなかったんです。つまり、川崎から富津岬までは全部、天然の遠浅の海なんですよ。基本的には、現代の港湾都市には不向きなんです。たとえ埋め立て地を作って、人工的に港を掘ったとしても、絶えず浸出しないように維持管理を繰り返さないとダメです。横浜とか横須賀あたりは、深い海になっているから港になる。

カマーゴ■ディズニー・シーが出来たけれど、本当ならばディズニーは世界を巡る観光船をもっているので、あの辺に良い港があればハブ港の1つになって、千葉から世界のディズニーを巡るとかできるんだけれどね。

ショート■東京湾の海辺の自然の再生は、いまとなってはちょっともう取り戻せないけれど、せめて海辺沿いのアクセスだけでも整備するべきでしょう。千葉の港から船橋まで、人工海岸を作っているのは、何もないよりはずっといいです。黒松も植えているし、サイクリングコースもあるしね。僕はローラーブレードが好きで、このコースをいつも走っているんです。
 たとえば、千葉港のポートタワーから、東京の臨海部とか竹芝あたりまで、ずっとサイクリングロードがつながったらいいね。今はまだ、稲毛、幕張の海岸沿いに少しロードや海水浴場があって、いったん途中で遮られて、船橋あたりで少し港町があり、また途切れて三番瀬がある。
 それからもう1つ、幕張から花見川沿いに北上していくサイクリングロードも、途中でいったん途切れるんだけれど、本当はずっと印旛沼まで遡って、さらに利根川まで行けるはずなんですね。この運河沿いにサイクリングロードがずっとつながるといい。そうすれば、幕張から成田の国際空港のすぐ近くまでが一直線でつながるでしょう。



日本人にとって楽しい観光が外国人にも価値がある

ショート■世界的にいま、観光というものが大きく変わってきていると思うんです。もちろん、ショッピング型、テーマパーク型、史跡・名所観光とかはあるけれど、急成長しているのは、文化ツーリズム、エコ・ツーリズムとか、体験型・滞在型のものですね。
 これから欧米人の観光客を引き付けたいならば、そういう日本の暮らしを体験させる観光が必要とされるでしょう。千葉ならその資源は豊富に残っているんだけど、残念ながら、それがまだ観光資源として認識されてないんですね。

カマーゴ■本来、観光といったときには、ただお金を落として帰るだけというのはありえないんです。歴史的にみても、外国を巡った人のうち必ず何%か、わずかの人でも、そこが気に入ったから暮らしてみようかという人が出てきて、初めて観光といえるんですよね。

ショート■そう。そのためには、人や自然や生活との触れ合いのなかで、そこで暮らしてみたいと思うような、何か擬似的な体験を通じて、魅力を感じる機会がなければね。

カマーゴ■例えば、海外からの観光客に対して、東京湾近隣の観光を振興していくのならば、その前に、日本人にとっての日本国内の観光の振興を考えるべきでしょう。いまの日本の観光地、たとえば温泉地にしてもたいへんな不況でしょう。消費者も同じ値段を出すのなら、韓国とかアジアに行った方が、安いし楽しいといったことになってしまっている。日本の観光地の振興は、ほとんど壊滅的じゃあないですか。
 まず日本人のための日本の観光を考え直さないと始まらないでしょう。値段の問題だけじゃあないですね。日本の観光地の設備やサービスの質は、本当に全然よくない。これでは外国人にも喜ばれませんよね。

ショート■僕も、日本各地いろいろまわってるけれど、あまり旅館とか泊まりたいと思わないんだよね。なぜなら、どこへ行っても出てくるものは同じ、冷凍まぐろ、冷凍えびとか、かにかまぼことかね(笑)。サービスもよくない。もちろんとっても高級な旅館は別にしてね。
 だったら、安い食事無しの宿とかビジネスホテルに泊まって、街を歩いて居酒屋とかレストランに入った方がよっぽどいい。

カマーゴ■これから日本人が本当に良いと思う国内観光を振興していくことができれば、おのずと外国人にとっても良い観光になるでしょう。結局、それは日本と日本人自身の価値選択の問題になってくる。

ショート■結局、日本の典型的な観光パターンというのは、大型バスに乗って、団体で名所巡りというのでしょ。昼間は何ヵ所も名所をまわって記念写真撮って、それで夜は旅館で大広間で食事して温泉入って帰る。これがパックになってて、これ以外の地元のものとの触れ合いとか、一切ない。こんなんじゃ、まったくつまらない。

カマーゴ■サラリーマン社会に合わせた、まさに近代観光のしくみですね。日本では長い休暇はとれないでしょう。どっか行って、ぱっと見て、さっと帰ってくる。

ショート■そこから本当に、日本人は変われるんだろうかというのが、僕の最大の疑問です。「あの街へ行ってきた」という本当の実感が持てないような旅行で、日本人が満足しているんだとしたら、これは結構絶望的だね。
 日本のあちこちで観光とか地域振興の仕事なんかもさせてもらったことあるけれど、地元の人にも、そういう観光資源の認識は低いですから。

カマーゴ■日本に来た外国人の意見を聞くと、「日本人はとても親切」という印象をもつ人が多くて、日本人の評判は決して悪くはないと思うけれど、それがビジネスとかサービスといった次元になったときには、急に悪くなっちゃうんですね。
 日本は今まではモノづくり、製造業の国だったけれど、これからの経済成長のなかで、消費文化からの脱却を目指すのだったら、やはりサービス産業への転換という発想が必要でしょうね。工業化の前の日本の時代に戻れば、たとえば江戸時代なんかにはもっとサービス的な発想があったでしょう。そこまで立ち戻って考え直さないと復活できないと思います。

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