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■特別インタビュー■

東京ゲノム・ベイ構想の拠点連携を(1)
大石道夫■(財)かずさDNA研究所所長
聞き手■桂木行人(本誌)


DNA/バイオ研究の拠点として、サイエンスパーク開発が進められてきたかずさアカデミアパーク。
点から「面」の展開を狙った、東京湾岸拠点ネットワーク構想について、中核研究機関である、かずさDNA研究所の大石所長に聞く。



東京湾岸のバイオ集積を活かして

──「東京ゲノム・ベイ構想」が国のプロジェクトとなり、千葉県でも「千葉県バイオ・ライフサイエンス・ネットワーク会議」が立ち上がりました。

写真大石■ライフサイエンス、バイオテクノロジーは、21世紀最大のサイエンスあるいは産業になると思います。日本でも1970年代後半から80年代にかけて、小さなブームがあったが、景気が良かったためかあまりそちらへ気が向かなかった。米国は、これで大きな会社もいくつかできて、成功した会社もある。
 その後、世界中でゲノム解読
*1の技術が進んでバイオを巡る情勢が一変した。日本でゲノムの解読をやった大学や研究所というのは、すべて東京湾の周囲です。関西にはほとんどない。東京湾には、かずさDNA研究所、東京大学医科学研究所、理化学研究所、慶応大学、製品評価技術基盤機構など、さらにバイオインフォマティクス*2は、経済産業省がお台場に新たな拠点として生物情報解析研究センターを設置している。
 ところがゲノム解読は進んできたが、その成果のフォローアップがいまひとつしっかりしていないという声がある。すでにシーズ(種)はたくさんあって、これからのバイオの時代は、産業化、実用化が中心の時代に入っていく。研究者の側では、どこにそのニーズがあるのかわからないし、企業の側はやや見通しがいいにしても、やはり研究の本流からは少し離れている。非常にもったいない話です。
 そんななか、東大医科学研究所の新井賢一さんが、「東京ゲノム・ベイ構想」*3というのを打ち上げて、ナノテクとかITも巻き込んで、この地域のポテンシャルを総合的に広げていこうという話が出てきた。
 バイオの世界は非常にスピードが速い。私の見方では、あと5年ないし10年で、世界的に勝負がついてしまうんじゃないかと思います。
 バイオに限らず、様々なレベルのものが集まる「集積効果」を活かすことが21世紀の新しい技術や企業化の特徴です。シリコンバレーがその最たる例ですが、バイオでも同じようなことが起きています。これまでの政策のように、北に拠点を作ったから次は南だとか、そんなことやっている余裕はない。首都圏周辺にこれだけの人的資源、資本、研究所が集積している恵まれた蓄積を放っておいて、おのおの自由にやってくれという手はない。この集積効果を上げるために、少なくとも何かオーガナイゼーションをすべきである、というのが、「ベイ計画」の基本的な考えです。
 そこでベイエリアは、千葉県、東京都、神奈川県、さらに広くは茨城県、埼玉県を含めながら、千葉が積極的に参加していったらいかがですかというのが、私の提案です。「千葉県バイオ・ライフサイエンス・ネットワーク会議」というのは、地域から発信して、政府に働きかけていくことが明確な狙いとしてあります。

──そこでのかずさの役割はなんですか?

大石■先端的なバイオテクノロジーの開発をこの地域で受け持ち、国際的な展開をしていくこと。東大の医科学研究所は医療・臨床関係のバイオをやっていく、鶴見の理化学研究所は、ポストゲノム時代の蛋白質をやっていく、そして、かずさ地域は、もちろんポストゲノムもやりつつ、一方で国際的研究の集積地域にしていきたい。
 具体的にはアグリバイオ、微生物バイオと同時に「国際バイオテクノロジー研究開発センター(仮名)」をここに形成するというプランを現在構想中です。重要なのは、戦略構想だけでなく、現にプロダクトまで出してしまうことです。



バイオのビジネスモデルは他の技術と違う

──それを実現させるためのプログラムは?

大石■バイオは、他の技術領域とはビジネスモデルが異なり、部分的に力を入れてもだめで、基礎から製品化までを全体としてもっていなければ戦略にならない。
 バイオテクノロジーのいちばん大事なポイント、宝の山は、やはり基礎的な発見の中にあります。バイオは、家電や情報技術のように、何かしら原理があって、それを改良していけばいいというものとは根本的に違う。バイオの場合、基礎がすぐさま応用と製品化に直結する。だから基礎を押さえないと話にならないのです。
──日本の基礎への研究投資は、まだまだアメリカに及びません。

大石■米国のすごいのは、NIH(国立衛生研究所)だけでも年間3兆円規模の予算を投じて、バイオ全体を底上げしてきていることです。そのために他分野の予算を全部削っている。バイオへのシフトのしかたはすさまじく、大学の研究予算をみても、6割がバイオで、残り4割を文科系から物理からコンピュータなどまでで分け合っている状況にある。日本ではそのシェアが上がってきてはいるものの、まだ30〜35%程度ではないか。これではまったく話になりません。



厳しい予算のなかで柔軟に先端研究を

──かずさDNA研究所は千葉県が設立した研究所です。

大石■十数年前に沼田知事が、渡辺格先生とか、利根川進さんとかに話を聞いて、それならバイオだDNAだということになった。特に「DNAだ」とはっきり言ったことは当時としては卓見だったと思う。
 たしかに政府がミレニアム予算で桁違いのバイオ予算を出しているなかで、われわれは厳しい戦いを強いられています。しかしわれわれの技術水準は高いし、テーマの選び方も非常に工夫もしている。また、国の予算でやると制約に縛られることが多いが、ここは幸いなことに、県が非常に柔軟に予算を任せてくれているので、ほとんど即決即断でテーマを変えていったり、先へ先へと動くことが可能になっています。
 そういう有利な点を活かして、日本のゲノム研究開発ではいちばん有名な機関としての地位を築いてきたし、地域の研究拠点としてここまで世界的レベルの機関を有しているところは、日本にはどこにもない。その点は、千葉県は大いに誇りにしていいと思います。
 すぐ隣りに、生物遺伝資源センター(NBRC)
*4も開設し、スピードはまだまだ遅いにせよ、まずまずバイオに集約した集積ができている地域でしょう。

──予算の少なさを知恵でカバーするということですね。

大石■千葉県の予算1兆6千億円のうち、我々は、わずか十数億円を使っているにすぎません。贅沢をしているどころか、徹底的に切り詰めて工夫してやっている。設備も中古品を使っている場合がある。新品で買えば4千万円の機械を、4百万円で払い下げてもらっている。試薬にしても、薬品会社の推奨基準よりも薄めて使っている。それでもなお、世界最先端の成果を出してきている。我々の研究所がDNA解析にかけている1塩基当たりのコストは、たぶん国の研究所の予算の半分以下で済んでいると思います。
 しかし、我々は徐々に県から自立していかなければならないでしょう。もともと、我々の特許やシーズを使いたいという企業を周りに集めるための、シンボル的な機関としての役割を目指してきた。十数社のベンチャー企業、大企業の社内ベンチャーなどが立地してきているが、まだまだもっと多くの企業に集まってもらい、競争力も上げていきたい。バイオを研究する大学も誘致したいと考えています。

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