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特集●幕張IT都市への提言 future's vision-2

digital meets physical――
情報デザインが都市・地域と出会うとき


渡辺保史■フリージャーナリスト


フィジカルな行為に情報を重ね合わせていく

 「情報デザイン」というと、あなたは何を思い浮かべるだろうか? ちょっとデザインに関心がある人だったら、出版物などで見かける統計グラフや地図のようなダイアグラム(図表)を作ることだと思うだろうし、インターネットをよく使う人は、ホームページ(ウェブサイト)づくりだと思っているかもしれない。
 もちろん、そういう見方は決して間違ってはいない。特に後者のウェブサイトのデザインは情報デザインの最先端の領域として実に多種多彩な表現の試みが日夜取り組まれている。けれども、情報デザインという営みの可能性はこうした、メディアの中身を作り込むことだけに留まらない、もっと大きな拡がりと可能性(そしてそれと裏腹の課題)を潜在させている、と僕は考えている。
 ここ数年、情報デザインの先端で活躍している現場を色々と見聞きして感じるようになったのだが、この活動に取り組んでいる決して少なくない数の人々が、どうやら紙の印刷物やコンピュータのディスプレイのようなメディアの、バーチャルで狭い世界を飛び出して、人間がフィジカル(物理的、身体的)な環境の中で当たり前にやっているリアルな経験を情報という視点から捉え、その経験のありようを変えていく、ということに大きなエネルギーを注いでいるようなのだ。
 たとえば、ある美術大学で情報デザイン教育を手掛けている研究者は、学生たちに「畑づくり」をさせながら、その過程で彼らが五感で感じたコトを表現させる授業をおこなった。「情報はイスのように決まったカタチがない。常に変化する、生き物のようなもの。そういうものをデザインすることの面白さや難しさを身体で感じてもらいたかった」と、その教授は言っていた。
 またあるメーカー系の研究所で近未来のコンピュータのインターフェイス(操作環境)づくりをおこなっている研究者は、壁面やテーブルなどいたるところにデジタルな情報が投影できる特殊な空間をデザインした。それは、デジタルな情報を、まるで実体があるモノのように手で触れられるような、気楽な操作環境だ。キーボードやマウスのように「特殊な方法」を人に強制するコンピュータではなく、僕らがふだん何気なくやっている行為に情報を重ね合わせていく、とてもやさしいアプローチだと僕は思う。


人間のコミュニケーションと情報デザインの一体化

 考えてみれば、僕らはこのフィジカルな世界で暮らしていて、何も意識しなくても沢山の情報を身体という生まれ持った道具を使って読み解き、ふだんの行動に役立てている。そういう意味でいえば、情報デザインというのはデザイナーの専売特許でも何でもなく、実は誰もが自覚しない情報デザイナーだということができる。そして、さきほど例にあげたような情報デザインの活動の先端にいる人たちは、こうした当たり前といえば当たり前のことに立ち返って、デザインという「意味ある秩序状態(オーダー)をつくり出すために意識的に努力すること」(ヴィクター・パパネック『生きのびるためのデザイン』晶文社)の本質を問い直そうとしているのだ。
 デザインという営みは今まで、産業社会の中で商品をキレイに着飾り、それを消費者に買わせたり、使わせることを大きな命題としていた。そこには、デザイナーという送り手とユーザーという受け手に分かれた構造が頑として存在していた。けれども、誰もが自覚しない情報デザイナーだという見方に立つとき、情報デザインは今までの産業主義的な構造を逸脱して、もっと新しい可能性へと僕らを導いていくかもしれない、とさえ僕は考えている。
 おそらく、僕らのフィジカルな暮らしの基盤である都市や地域コミュニティに内在している問題を解決するのにも、情報デザインが果たす役割は小さくないんじゃないだろうか。都市や地域の問題解決のためには、建築や都市計画という確立された専門分野がある。それはそれでこれからも重要な役割を担うことは言うまでもないが、そこに情報デザインという、人間のコミュニケーションのような社会的な活動と向き合う情報デザインの発想や方法がオーバーラップしていくことで、人間の活動環境のデザインは今までの限界を超え、新しい次元に移っていくかもしれない。


コミュニティデザインの新しい地平へ

 実際、フィジカルな都市・地域のデザインとデジタルな情報デザインとが重なり合う未来の芽は少しずつ見えてきている。京都の大学で情報デザインの研究者や学生たちが、伝統的な織物産業が集積していた西陣の旧い町家を借り受けて、地域文化の再発見や小学校などの情報教育の支援をしながら、伝統と先端を融合させたデザインを模索しようとする「京都西陣町家スタジオ」の活動、あるいは、英国の地方都市で先進的な情報インターフェイスのデザインを地域住民を巻き込みながら進めた「Living Memory」というプロジェクトなどは、既存の「まちづくり」とは一味違うコミュニティデザインの新しい方向性を示唆しているような気がする。
 情報テクノロジーが急激に身の回りに浸透し、僕らがテクノロジーを身の丈サイズの生活圏の中で使い込み、暮らしをよりよくしていく方法として、情報デザインの発想がこれからますます欠かせなくなることは間違いないだろう。

わたなべ・やすし●1965年生まれ。情報通信業界紙の記者を経てフリーランスのジャーナリストに。著書に『情報デザイン入門 インターネット時代の表現術』『情報デザイン 分かりやすさの設計』など多数。現在、コミュニティを基盤とした知財創造の可能性を実践的に探求する、C2C(community to community)デザインラボ事業(仮称)の立ち上げを準備中。

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