「情報デザイン」というと、あなたは何を思い浮かべるだろうか? ちょっとデザインに関心がある人だったら、出版物などで見かける統計グラフや地図のようなダイアグラム(図表)を作ることだと思うだろうし、インターネットをよく使う人は、ホームページ(ウェブサイト)づくりだと思っているかもしれない。
もちろん、そういう見方は決して間違ってはいない。特に後者のウェブサイトのデザインは情報デザインの最先端の領域として実に多種多彩な表現の試みが日夜取り組まれている。けれども、情報デザインという営みの可能性はこうした、メディアの中身を作り込むことだけに留まらない、もっと大きな拡がりと可能性(そしてそれと裏腹の課題)を潜在させている、と僕は考えている。
ここ数年、情報デザインの先端で活躍している現場を色々と見聞きして感じるようになったのだが、この活動に取り組んでいる決して少なくない数の人々が、どうやら紙の印刷物やコンピュータのディスプレイのようなメディアの、バーチャルで狭い世界を飛び出して、人間がフィジカル(物理的、身体的)な環境の中で当たり前にやっているリアルな経験を情報という視点から捉え、その経験のありようを変えていく、ということに大きなエネルギーを注いでいるようなのだ。
たとえば、ある美術大学で情報デザイン教育を手掛けている研究者は、学生たちに「畑づくり」をさせながら、その過程で彼らが五感で感じたコトを表現させる授業をおこなった。「情報はイスのように決まったカタチがない。常に変化する、生き物のようなもの。そういうものをデザインすることの面白さや難しさを身体で感じてもらいたかった」と、その教授は言っていた。
またあるメーカー系の研究所で近未来のコンピュータのインターフェイス(操作環境)づくりをおこなっている研究者は、壁面やテーブルなどいたるところにデジタルな情報が投影できる特殊な空間をデザインした。それは、デジタルな情報を、まるで実体があるモノのように手で触れられるような、気楽な操作環境だ。キーボードやマウスのように「特殊な方法」を人に強制するコンピュータではなく、僕らがふだん何気なくやっている行為に情報を重ね合わせていく、とてもやさしいアプローチだと僕は思う。