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■特集 幕張シャンゼリゼ■
賑わいから街歩きのプロムナードへ

欲望と消費の都市空間
――オタク、ルイ・ヴィトン、ガングロの真相(2)




盛り場に宿る「地霊」

鹿島■上海にも最近行ったんだけど、あそこはやっぱりすごい。驚異です。川沿いのバンドの辺りは、まさに100万ドルの夜景だし、新開地がまたすごい。政府が入居率とかまったく考えずに、ばんばんビルを建てさせてる。建築コンペの模型がそのまま建ち並んでいる世界、1900年のパリ万博パビリオンの世界そのものですよ。

山田■せこいこと考えてるとダメよね。消費論というのはほとんど空間論だから、空間をケチってたら、消費もケチくさくなってしまう。
 鹿島さんが住んでいらっしゃる横浜なんかは、街の中にまだ道の狭さの魅力が残っているところが多いんじゃないかしら。

鹿島■横浜の最大の財産は、中華街なんですよ。あそこは僕が知っているかぎりで、ここ30年でいちばん発展した盛り場だと思う。横浜人気の実体を支えているのは、山下公園でもMM(みなとみらい)21でもなくて、中華街の威力です。あれだけ中華的な街をテーマパークのように作り上げたのは、世界でも他に類がないでしょうね

山田■「横浜」というロマンティックでオンナ的な響きに誘われて行くと、最後に辿り着くのは中華街というわけなのね。(笑)

鹿島■エスニックとか、アジア的なものがオシャレになっているから、今の女の子に、フランス料理なんて全然威力ない。最近は六本木や原宿が、エスニックの露店の街になってきていて、アラブの肉料理やらなんやら、ミニバンで来てゲリラ的に売ってまわっているんですよ。

山田■名古屋も道が広い分、夜はおいしい屋台があちこちに出ますね。名古屋コーチンを使ったりとか。

鹿島■六本木がなぜ盛り場になったのか、その理由がずっと謎だったんだけど、最近ちょっと気づいたのは、たぶん最初に盛り場的要素がゼロだった街だからですね。
 もともと六本木は、銀座の客が車で流れる街で、だからこそ車で行ける人間だけが集まる秘密性のある場所として、価値を高めていった。アマンドの交差点で「六本木はどこだ?」と聞きたくなるくらい、どこが盛り場なのかさっぱりわからなかったのが、徐々に盛り場の「点在性」と「スノッブ性」が高まっていき、さらに「外国人性」が融合して盛り場らしい体裁が整ってきたのが、六本木という街の特徴です。

山田■パリというのも非常に人工的な街なんだけれど、なんか不思議に、おカタい人、ダサイ人、誰が歩いてもパリっぽくなりますね。街に同化させてしまう力があるというか。

鹿島■それが「地霊(ゲニウス・ロキ)」の恐ろしさですね。  例えば、新橋の駅前ビル。旧ヤミ市を撤去してきれいなビルに建て替えたのに、ビルの中がヤミ市化している。新橋の地霊が乗り移ってる。この世であれほど不思議な雑居ビルもないでしょう。安売りチケット屋、安靴屋、安Yシャツ屋、マムシドリンク屋、ゲームセンター、脱衣マージャン、安居酒屋、風俗まで、およそサラリーマンの欲望を満たすものはなんでも入っている。安い、うまいが揃ってて、時代の澱みが全部あそこに集まって、逆にパワーになっちゃってる。



「ルイ・ヴィトン」は
紙幣である


山田■それにしてもルイ・ヴィトン(※)人気というのは強烈ですね。近いうちに堂々の値上げをするらしいですよ。(※1854年、パリに世界最初の旅行鞄店として誕生。1896年、コピー商品流出防止のため、世界で初めてL、Vと花と星を組み合わせたモノグラム柄を採用、王侯貴族、上流階級を魅了した。1987年、モエ・ヘネシー社と合併し、LV モエ・ヘネシー・グループという一大ファッション帝国へ変身を遂げている。)

鹿島■右肩上がりを絵にかいた成長ですよね。

山田■なにせ20年間で60倍の成長というのだから。しかも、フランス以外での売り上げの3分の2を、いまや日本人が担ってるんです。これはものすごいことよね。消費欲は減退しているなんていわれるけれど、ルイ・ヴィトンだけはあらゆる意味で別格。お店は、いつでも、老若男女で大繁盛、大活況。いかにもママさん風の着物の人も居れば、お金持ちマダム風も居る、コギャルも居る。男の子も来る。

鹿島■要するにあれは、「ルイ・ヴィトン」という紙幣なんですよ。

山田■ええっ、公の通貨と等価の地位を占めるの?そんなバカな。

鹿島■いや、でもそれに近いでしょ。まずあのモノグラム模様が、まさに紙幣を連想させる。やっぱりこれは札束の変わりなんですよ。直営店で、額面の値段でみんな買うわけだから、まさに紙幣ですよ。ただしルイ・ヴィトンだけに許されたことであって、他のブランドでは決してこうはなり得ない。まさに「フランスを買う」というに等しい価値。「フランス国債」ともいえるな。

山田■分かりやすくて、普遍性があって、ここまで有名だとオジサンも迷わず買えるわけね。

鹿島■そう。オジサンが若い女の子にいきなり3万円の現金を渡すわけにはいかないので、「どれ、ヴィトン買うてやるわ」となる。(笑)トップブランドの特権だね。

山田■どの家にも1個か2個あるんじゃない?不思議な国よね。しかし本当に、「日本人はなぜルイ・ヴィトンが好きなのか」これを分析しただけで1冊本が書けますよ。

鹿島■そもそも、頑丈で長持ちという「堅牢神話」が根強くあって、男がメルセデス・ベンツをはじめドイツ製品を好むのと同じように、女もヴィトンが好きというところはあるでしょうね。やはり「堅牢」「長もち」というのは、消費の大義名分としての威力は大きい。堅牢神話は、高いものを買う動機としては、最高の逃げ道になっているんでしょう。

山田■もちろんヴィトンも、伝統にあぐらをかいているだけじゃなくって、戦略的に新しいデザイナーを雇って、エナメル素材のカラフルなヴェルニ・シリーズを出したりしていて若い女性なんかに人気なんだけれど、売れ筋はやっぱり昔ながらのモノグラムシリーズ。男性、若い男の子もよく持ってますよね。

鹿島■グループの総裁、ベルナール・アルノーはやり手だしね。

山田■サンジェルマン・デ・プレの店でも、買ってるのはアメリカ人と日本人。

鹿島■あと台湾人と韓国人。

山田■韓国人も台湾人も、ブランド好きね。私の本も、『ブランドの世紀』とか、4冊も台湾で翻訳される予定なんですよ。日本のギャルが好きなブランドやファッションの本が、向こうではすごく受けるみたい。



「ガングロ」とは
女同士の見栄である


鹿島■結局、不景気になればなるほど、「独り勝ち」になるんですよ。まず当たり前のことだけれども、バブルの時に10万円使えたのが1万円しか使えないとなると、消費者の選択は厳しくなる。並んででもトップのものを買おうという気になる。

山田■そうね。だからユニクロが当たるのよね。あれはまさに時代を体現しています。

鹿島■他のところには、ユニクロ以上のものがあるかもしれない。でも「1個しか選べない」となれば、それはユニクロ行くでしょう。もう少し金があれば、2、3個買ってみるということもできるけれど、まずそれが出来ない。
 いちばん安くていちばん良いものが欲しいとなると、いちばん良いところだけが勝って、他は全部負ける。これは商品だけじゃなくて、盛り場も同じことが起きています。

山田■盛衰がはっきりしてますね。

鹿島■の結果が、ユニクロのパンツに、ルイ・ヴィトンのバッグぶら下げてという世界。もはやこれが、日本ではごく普通にみられる当たり前の風景になってしまった。

山田■まったく芸がないわね。(笑)

鹿島■特に男の子は、自分の部屋でゴロゴロしている服装のまんま、ちょっとコンビニまで出かけるという感覚の延長で、タウン化、風俗化しちゃってる。これを僕は「子供部屋効果」と呼んでいるんだけど、そういう人間にとっては、人と同じだろうが何だろうが全然気にならないんですよ。

山田■女の子の世界では、「渋谷109」のカリスマショップが流行るとか、それなりに多様なモードがあるけれど、男の子はごく単純ね。そういう意味では、男というのは常に消費者としては二流ですよね。なんだかんだ言っても、女は生まれながらにして一流の消費者である。

鹿島■男の欲望について考察したかぎりでは、ほとんど男同士の見栄でしか、欲望は発動されない。女の目なんてじつは全然関係ない。

山田■それはもう古典的かつ当たり前の常識よね。

鹿島■ところが最近、その傾向が女にもみられるようになってきたと思うわけです。例えば「ガングロ」って、あれは女同士での一種の威圧効果じゃないですか。あれは男の気を引くための孔雀効果ではあり得ない。

山田■男の目線なんてまったく気にしてないですね。ガングロは女の世界での「我こそは」の自己顕示。「アンタらとは違うのよ」という感じでしょう。しかし、いずれにしても非常に単純なメカニズムですねえ。



「贅沢の文化」とは
「退廃の文化」である


しかしこんなに経済大国なのに、日本は相変わらず家が貧しい。家が貧しいから、代わりに車を買う。安くなってきたとはいえ、それでも日本人にとって家は一生もの、ほとんど自殺ものの買物でしょう。不況になっても景気がよくなっても、そこはほとんど何も変わっていない。

鹿島■東京都が「高校から不平等をなくす」なんて学校群を始めてから、子供をちょっとでも良い大学へ行かせたいという人は、私立に行かせるしかなくなっちゃった。それが今度は「お受験」になる。その結果、膨大な教育費がかかるようになり、中産階級の可処分所得は圧倒的に少なくなって、住空間がまたさらに貧しくなった。
 欧米の人間は、一部のエリート以外は庶民なのだから、土地を買う人なんて限られている。だから土地の値段も上がりようがない。じつは日本だって、昔は全員賃貸、持ち家はゼロというのが、常識だったんですよね。平等化が進めば、だれもが持ち家志向になるから、土地や家が高くなる、これは考えてみれば当たり前のことなんだよね。

山田■もうハングリーでもない時代なのにね。もう消費すら快楽ではない…。

鹿島■ルイ・ヴィトンを除いてね。

山田■それにしても、本物の贅沢を知らないということは、つまり退廃の仕方を知らないということですよ。

鹿島■いや、俺に金くれりゃ、いくらでも使ってやるんだけど。(笑)文化というのは、贅の限りを尽した末に、僧院にある粗末な絨毯を大枚はたいて作るとか、そういう退廃まで行けないと生まれない。

山田■日本は、そういう退廃へ行き着けるまでの教養が熟さないうちに、バブルがはじけちゃった。

鹿島■バブルがもうちょっと続けば、退廃が出てきたと思うんです。バブルというのは、必ずいつか潰れるものなんだけれど、少なくとも3代続かないとダメなんですよ。じいさんが成した財を、道楽者の3代目が食い潰す。そこまで続けば退廃の文化が出てくるんですけれどね。
 ところが、日本のバブルは続かなかった。それで道楽者の3代目はどうなったかというと、「オタク」になるしかなかったというのが、今に至る日本のストーリーなんです。

山田■アメリカが凋落してるといわれてるけれど、どうなのかしら。

鹿島■このまま落ちると、ちょっとヤバイですね。まあ日本ほどには沈まないでしょう。知恵も経験もあるし、土地に投資していないし、ドルという世界紙幣を刷れる国家の利得というのは、必ずあるわけだしね。
 アメリカの場合、ニューヨークは1920年代のバブルの遺産で食っている街で、アールデコ、アールヌーヴォーの素晴らしいものを、みんなパリから持ってきて、そのまま残っていますよね。近年のバブルで出来た街が、ラスベガスですね。

山田■しかしアメリカというのは、退廃していないことについては、人後に落ちない国よね。日本は谷崎潤一郎を生む国なんだから、アメリカよりよっぽど素養はあるはずなんだけれどね。


やまだとよこ●愛知淑徳大学教授、フランス文学・文化論/1946年生まれ。
メディア、モード、ファッションなど、独特の鋭い筆致で幅広く論考を展開。著書に『ファッションの技法』『ブランドの世紀』『モードの帝国』『リゾート世紀末』他。訳書にバルザック『風俗研究』他

かしましげる●共立女子大学教授、フランス文学・文化論/1949年生まれ。
19世紀のフランス社会と小説を専門としながら、日本の大衆風俗論、街歩きのエッセイ、パックツアー体験記まで、洒脱な著作を多数ものしている。著書に『馬車が買いたい!』『絶景、パリ万国博覧会』『デパートを発明した夫婦』『空気げんこつ』他

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