■幕張リフレーン(2) 千葉県経済からみた幕張新都心■
幕張独自の集積を活かした再構築へ
――IT集積、にぎわいの集積により
人間の感性に訴える都市づくりを
千葉滋胤■千葉商工会議所会頭、ケーブルネットワーク千葉社長
時代の要請を見極め
新たなステージへ
千葉の湾岸開発は、そもそも千葉南の川崎製鉄を皮切りに、重厚長大の重化学工業コンビナートから始まったが、戦後国土政策の見直しという大きな枠組みのなかで、新たな産業集積を目指して生まれてきたのが、幕張新都心であり、千葉新産業三角構想である。
景気の低迷によって、スタートからまもなく幕張の構想は足踏みをした。しかし、この都市空間のキャパシティは非常に大きく、他の臨海部に比べても、どういう方向にも対応可能な余地を残している。かずさアカデミアパークがバイオ研究で集積を高めているが、幕張にもさらに新しいトライアルが求められている。
昨年来ようやく活気づいてきた商業機能や、いよいよ1万人を超えた住宅地域「ベイタウン」を、次のステージへの良き起爆剤にしなければならない。新規企業の立地にも、注目すべきトピックは少なくない。例えば、米国最大のバーチャルショッピングモールを経営するQVCという会社が、幕張のWBGビル(ワールドビジネスガーデン)に日本進出の拠点、QVCジャパンをかまえている。ケーブルテレビやインターネットの通販で、ありとあらゆる商品を扱うQVCだが、首都圏で拠点を構えるにあたって、横浜、東京、幕張を見て回り、即座にここだと決断したそうである。やはり、コンベンションセンター、会議場、日本を代表する一流企業のビジネスオフィス群などに、幕張の魅力を感じてここに立地したのであろう。こうした幕張独特の集積というものは、非常に大事な資産である。
幕張の街自体が、まだ建設途上であり、新たな立地に関しては、地域に影響の高いものを積極的に選んでいくべきだろう。県も、また民間も、幕張のポテンシャルを見据えて、是非とも実験的なことに挑戦してほしい。すべての課題を一挙にというわけにはいかないだろうが、時代の要請を見極めた新しいステージへ向けて、再構築が望まれる。
地域、さらには千葉県土との連携を
業務機能の集積においては、地域との結びつきが、民間レベルでもまだまだ不足している。企業もまた景気の大波風に洗われ、足踏みをしている時代ではあろうが、NTT、シャープ、イオングループなど、大手企業が多数立地している利点を相互に活用できるよう、地域連携の可能性がもっと追求されてしかるべきだろう。幕張にとどまらず、千葉県内の産学官とのリンケージ、例えば千葉大や千葉工大との協力でさまざまな試みができる余地がある。
大学もまた、国立、私立を問わず、経営的に非常に大変な時代を迎えているわけだが、大学からも、さまざまな要望を出していくべきである。行政においては、こうした活性化をいかに誘導していくか、もっと柔軟な発想、新しい方法論の導入が課題だろう。
これからは、さらに千葉県の魅力とのリンケージが、幕張新都心にとっても重要になるはずだ。千葉県の発展においても、新しい時代のなかで首都圏3000万人に向けて、どのような価値を提供できるのかを見い出すことが、大きな鍵を握る。首都圏における千葉県のポテンシャルを考えたとき、東京湾横断道より南の内房総、外房総のレジャー圏としての魅力は非常に高い。房総半島の湾岸から内陸部を含めて、エンタテインメント、レジャーを含めた波及効果を視野に入れつつ、県土の構想を広げるべきである。今までのような開発手法ではなく、自然環境、水や空気の資源の価値をどう活かしていくかが、問われることになろう。特に、千葉の豊かな自然は、はかりしれない貴重な価値を持っている。
本来の「成田、幕張、かずさ」を拠点とする千葉新産業三角構想にあった、県全土のリンケージによる価値の付加というビジョンを、次のステージに進めるべきである。そこでは、IT化がひとつの重要な焦点になる。ブロードバンド・ネットワークを供給するサービスプロバイドセンターを、ぜひ幕張に立地してほしい。ITネットワークの力を最大限活用した都市集積のために、無線・有線どちらもカバーし、衛星、電話回線、ケーブルをリンケージさせるための拠点が不可欠である。より多くの地域へ、人々へ、ネットワークを送り届けるための「伝送路の拠点」は、いままさに最も求められているインフラである。
具体的に県や幕張が、IT振興策に取り組んでいくには、ITとひとくちに言っても、多様な切り口、多様な解釈があるので、生産的に議論を噛み合わせていくには、インフォメーションテクノロジーの一体どの問題を取り上げていくのか、しっかりと焦点を定めて取り組む必要があるだろう。
最大の課題は商業の活性化
中小企業でも工業分野は、景気の浮沈に関わらず熱っぽく技術や事業の先行きについて語ろうという意気が感じられる。
それに対して、いま最も心配なのは中小の商業である。ユニクロに象徴されるように、いずれの産業でも「多品種少量可変生産体制」による合理化・効率化が必須になっているが、これについては、商業よりは工業のほうが早くからその課題に直面しており、技術的な課題解決のための方法も苦労しながらすでに確立してきている。ところが商業になると、解決策があまり見い出されておらず、難しい局面に立たされている。大手企業は中国、韓国、台湾の企業を使って、調達や生産の体制を確立しているが、中小の小売業では「問屋から仕入れてきてさばく」という旧来的な系列の仕組みから離脱できないのがネックである。
結局、「モノ」を売るだけでは駄目で、消費者、生活者が潜在的に抱えている購買動機や欲求そのもの、消費者行動に、もっと敏感にならなければならない。売り手が良いと思ったもの、売りたいものを、買い手に押し付ける発想は捨て去らなければならない。ルイ・ヴィトンの鞄を買っている人も、パンツやTシャツを買う時はユニクロに買いに行くということになっているらしい。こういう行動を、消費者は平気で取るようになっている。いま消費者行動に大きな変化が訪れているのだ。化粧品にしても、ただの「清潔な水」が高価で売られたりしている。こういった現象を、ただ「分からない」といって理解しないままでいたら、何も売れなくなってしまう。
業界としては、古い商売の発想から抜けられない人達への動機づけ、情報提供が必要である。先行事例のサクセスストーリーの分析、あるいは失敗分析でもよい。さまざまな試行錯誤を共有化して、トライアルの糸口を提供していかなければならない。もはや学校で教えているマーケティングの手法そのものが、こうした現象に対応できるフレキシビリティを失っているという問題も抱えている。
消費者の心をつかむ「場」づくり
「人見て法説け」とはよく言ったもので、相手を知り、相手の心をうまく捉えられれば、Eメールを活用した販売なども、スムースに取り入れられていく時代である。
重要なのは、消費者の心を知ることである。「外食」とひとくちに言っても、時には北風に吹かれながら熱燗をぐいっとやるという屋台的なものも欲しいし、また時には、洒落た高級レストランに家族と行きたい、この両方への欲求が、1人の人間の心の中に違和感なく混在している現実を、よく理解するべきである。
例えば、昔ながらの五日市、八日市などの市は、きれいでもなんでもない、道路の上にただ芋や魚を並べる雑多な市で、店のコストといったら戸板一枚である。しかしそこには、シズル的な旨さ、よだれが出そうな臨場感がある。人間の根源的な欲求を満たすエンタテインメント性が宿っているのである。
やはりモノ、サービスを提供するには、消費者の潜在的な欲求をにらんだ場づくりが必須である。本屋で喫茶店をやるとか、喫茶店で本を売るといった現象も出てきているが、そうした場づくり、雰囲気づくりへの努力が大事な時代なのだ。消費者へ直球を投げるのではなくて、一度相手の後ろに回って、スリークッションで後頭部にコツンと当てて買わせてしまうくらいの、ひねり技のアイデアが必要だろう。
都市間の競争と協調のバランスを
東京臨海部、横浜MM(みなとみらい)21、幕張新都心を三極とした、首都圏の都市間競争、地域間競争は、今後もある程度は起こっていくだろう。その一方で、都市間協調がいっそう必要になってくる。「唯我独尊」ではなく、リンケージの方向性をより積極的に探ってほしい。自治体もそのような発想の転換が必要である。
また幕張新都心は、千葉県からみれば東京湾の北であるから、「ノースサイド」という発想で取り組みがちである。しかし、京浜・京葉地帯は、東京湾全域から見れば、明らかに「ベイ・イースト」である。この複眼的な視点を大切にするべきだろう。
自治体の行政というものは、そう簡単に変わるものでなく、いきなり変えようとしても無理がある。完全に変わるには、50年はかかるだろう。ここはやはり、バーチャル行政によって、現実の縦割り構造を、ネットで横連携につなげていける仕組みを、ぜひ先行させたい。
結局のところ、図面で引いたようにきちっと行かないのが、人間の心である。感性に訴えるものを織り込んでいくところが、今後ノウハウ化されていくことになるだろう。幕張にしても、例えば、ゾーニングと時間を限定して、部分的に屋台やワゴンを開放するような試みを是非やってほしい。今ある街のTPO、都市計画のなかに、人間の感性が求めているものをうまく融和させていく工夫がほしい。まさに有機的なアイデアの創出が必要とされている。
ちば・しげたね●1933年生まれ。1955年千葉銀行に入り、常務、副頭取を歴任の後、95年からケーブルネットワーク千葉代表取締役社長。千葉商工会議会頭、幕張メディアサーフィン運営協議会会長などを兼務
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