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■幕張リフレーン(1) 国土形成からみた幕張新都心■
「身体の復権」と新しい計画論
  ――「関東コリドール」構想から20年、
   日本経済は象徴的な転換点を迎えている


石井威望■東京大学名誉教授、前・国土審議会会長



東京電力とNTTドコモの新旧交代

 80年代の始めに、私は幕張新都心を含む千葉の新産業三角構想に関連して、成田と首都圏を結ぶ一帯を「関東コリドール」と位置づけようという提言を行った。千葉の幕張、かずさ、さらには筑波や横浜などがもつ関東圏の技術集積を、世界とつなげる中核の地域がこの「関東コリドール」であり、来るべき情報化社会に向けて、新たな技術資源の国際発信を繰り広げていく舞台づくりを、この一帯を拠点に展開すべきであると提唱した。
 それから20年、情報化は当時からは予想もつかないような段階へと進んできた。また、世界的なゲノムサイエンスの進展のなかで、かずさアカデミアパークが集積してきたDNA研究、ヒトゲノム研究も、時代的なテーマとして一挙に浮上してきた。ヒトゲノム研究を加速してきたのも、じつは情報化の進展にある。最も重要な点は、この情報化の持つインパクトが、80年代当時と現在とでは、驚くべき変容を遂げているということである。 

 この変容を象徴する出来事が、いままさに起きようとしている。NTTドコモの設備投資額が、世界最大の民間電力会社である東京電力の設備投資額を、早ければ今年中に上回ることになる。東京電力は、これまで年間1兆4千億円にも達する規模の莫大な設備投資を行ってきたが、発電所計画の凍結などもあり、もはやその額は1兆円を切る。一方、NTTドコモは、iモードが2000年には加入台数1000万台を達成し、時価総額はすでにトヨタ自動車を抜き、経常利益でもトップグループに入っている。
 この春には、携帯電話の普及台数はドコモで2000万台、他社を含めて3000万台にまで達するとみられ、4人に1人にまで普及したことになる。日本経済にとって、携帯電話がもっているここ1、2年のウエイトというのは、はかり知れない。東京電力とNTTドコモの新旧交代劇は、21世紀への時代の大きな転換点を象徴しているといえるだろう。



「情報開放型」の情報社会へ

 ひと言でいえば、我々はいま、「情報抑制型の情報社会」から、「情報開放型の情報社会」への変革期を迎えているということができる。まず第一に、インターネット利用層の幅が一挙に広がった。iモードを例に取ると、利用者の年齢構成は40歳以上が27%と最も高く、35歳以上でみると35%にもなり、意外にも3分の1以上が、ミドルからシニア層に浸透している。また女性利用者も43%と高い。
 さらには、携帯電話はすでに音声通話用にではなく、圧倒的にメール送受信のツールになっている。メール利用は、ドコモの2000万人の平均でも、1日1人当たり受信4通、発信3通余りという数字にまでなっている。平均でこの数字なのだから、頻繁に使っているユーザーは、メールはほとんど携帯電話でハンドリングしていると考えていいだろう。

 携帯でのメール受発信の最大のメリットは、電波の届くところであれば、歩きながらでも、打ち合わせをしながらでも、24時間いつでもどこでも、メールの受発信が可能になったことである。これまでは、溜りに溜っているものを、シーケンシャル(逐次)に処理しなければならなかったものが、何か別なことをしながら、パラレル(並列)に処理できるようになった。これが人間行動に大きな変革を起こしている。
 私も1時間当たり約6通のメールを受信するが、取材を受けながらでも、講演会に出演しながらでも、手もとでメールを処理してしまう。たいがいの要件は、見て、意思決定して、1分もかからずに返信できる。従来1、2時間かかっていた作業が、1、2分になるような効率化が図られているといっていい。100倍の時間効率の向上が果たされ、しかもコストは音声通話の10分の1という安価ですむ。
 携帯によって、人間のアクティビティはまったく変わった。インターネットにパソコンから入る必要はもうなくなり、個人がそれぞれのライフスタイルのなかで、携帯の機能を自在に使いこなし、それによって都市空間というものも大きく変わろうとしている。



超分散型ネットワークを
受容する都市構造


 最近、若い人に「手を2本使って入力するなんて、もう信じられない」といわれ、大変なショックを受けた。そういう世代すらもう出てきている現実を考慮する必要がある。
 人が変わったのだから、都市も変わらざるを得ない。これが我が国でこの1年間に起きた、決定的な変化である。これを自ら体験していない人には、この変化の意味、情報処理のスピード感は実感できないだろう。
 幕張新都心の今後を考えるうえでも、第1ステージから連続した第2ステージという発想では追いつけない。不連続に変わってしまった時代に対応した、第2ステージ論が必要になってくる。大切なのは、計画する側、運営する側が、身をもって新しい時代を体験し、そのフィーリングを肌で知っていることである。

 メールだけでなく、携帯でウエブサイトを見るという行動も、かなり広がっている。簡単な操作で、花が好きな人は花図鑑から、野球が好きな人は試合のスコア情報から、といった具合に、狭い趣味的なモチベーションですっと入っていける。一度入ってしまえば、使いこなしを横に広げていくのも、時間の問題である。何千万人ものユーザーが、それぞれの欲求に応じて、商品やサービスを注文したり、人や地域と交流したり、自立の機会を模索したりと、パーソナルな行動が縦横に交錯する、「超分散型ネットワーク社会」が実現されることになる。
 このネットワークをうまく反映した空間設計に、新たな可能性が広がっていく。そこで重要なのは、外部との開かれた「関係性」である。従来は、まわりとの関係をなるべく切り離して、閉じた世界で空間を構築するという考え方が主流だったが、これからはネットワークによって開かれた「場」として、空間を考え直していくべきだろう。「場」によって、人間の関係の可能性も大きく変わってくる。だからこそ「場」をいかに創るかが、非常に大切になる。

 都市の「形」というのは、常にその時点でのひとつの結果に過ぎない。重要なのは、いかに長いスパンで、持続的な都市形成を行っていくかということだ。結局、都市を形成しているのは、人であり、人の行動である。これまでは、1人ひとりの人間がどう思っているのか、どう感じているのかをつかむのが非常に難しかった。ところが、携帯電話、特にメールを活用することで、多数の人間の考えや感情を相互につかみながら、ゆらいでいる環境条件に対応していくというマネジメントの方法論が、可能になりつつある。
 最近実験的に取り組んでいる例だが、30〜40人の子供に携帯電話(iモード)を渡して、自由に行動させながらメールで、「いま面白い?」「いま何しているの?」といった情報を個々につかんでいく。「これに賛成?」とか「もう眠い?」といった細かい質問をどんどん聞いて、回答を集計して瞬時にパーセンテージで見るということも簡単にできる。こうしたスタディは、いかようにも応用可能である。双方向性を活かしたまったく新しいマネジメント手法として、想像力豊かに広く活用していけるだろう。



「複雑系」をベースにした
新たな計画論へ


 さらには、経済、ネットワーク、都市など、さまざまな社会現象を取り扱う理論として、「複雑系」が近年注目を高めている。生命や生物のように、複雑な自己組織化やゆらぎを伴う現象として、経済や人間を捉える必要があるということは、かなり以前からいわれてきたが、最近になって、急速に実践応用レベルの議論がされるようになってきた。

 ひと言でいえば、複雑系の理論が目指すのは、「無計画の計画化」ということだ。いうなれば、シングルタスクで、1つ1つレンガを計画通りに積み上げて全体が完成していくような仕組みではなく、マルチタスクで、あたかもリナックスというOS(基本ソフト)が形成されてきたように、複雑な進化を遂げながら成長していく仕組みを、分析し構築する手法である。まさに科学と社会の進歩が一致して、本質的な「ゆらぎ」に取り組み始めた時代なのである。
 国土計画にしても、地域開発にしても、「計画」自体の定義をし直し、旧来の発想による閉塞感をなんとか脱却しなければならない。幕張新都心の「都心」も中枢の意味があるが、都市計画は、従来の予測理論、計画理論を超えて、中央のない複雑系やカオス、自己組織化理論を織り込んだ計画論を、積極的に開拓して取り入れていくべき時代を迎えている。

 これまでは、新幹線の運行時刻の管理ひとつにしても、ゆらぎを一生懸命抑えてきた。しかし、実際には人間も社会もゆらいでおり、これに合わせた新しいシステムが、次の時代に出てこなければならない。ゆらぎを吸収するシステムというのは、じつはロスを最小化するシステムである。人間の生命現象のゆらぎも、そうした原理をもっている。決めた時間に合わせようと非常に無理をして、かえって事故が起きたり、ストレスが溜ったりするが、ゆらぎを吸収して柔らかく進めていけるようにすれば、都市は快適さを増すだろう。「ロスを少なくしてかつ、ゆらぎを吸収する」という方法論が、これからの新しい計画原理になる。
 都市計画とは、本来はこうした方向を目指していたはずである。それが近代化のなかで、無理矢理に工業的な理論に合わせてきた。それを逆に人間の身体や心の動きの側に合わせて考えられる理論が、ようやく出来てきた。そういう時代に入ったのだ。



いしい・たけもち●1930年生まれ。東京大学教授を経て、平成3年より慶應義塾大学環境情報学部教授、平成11年より客員教授に。専門はシステム工学、医用工学、産業社会システム、メカトロニクス、マルチメディア。著書に『シナジェティック・ビジョン』『フラクタル発想のすすめ』『インターネット進化論』など多数

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