■インタビュー■
エコノミスト アジアへ行く
「知的・新アジア主義のすすめ」
エイジアン・インテレクチャル・リーダーシップ (2)
円経済圏」ではなく
「円の国際化」
――アジアに「円経済圏」を作ろうという意見をよく耳にしますが。
吉冨■「圏」というのは英語でブロックなんですよね。ブロックというのは、基本的に1930年代で終わる。円の経済圏というのは、30年代みたいな対立抗争みたいな前提があって、相手のアタックを防ぐとか、そういう意味合いがあるんですよね。それはものすごく遅れてる。どの程度議論しているか知りませんけれども、膨大な文献を読むと、そんなふうには、なかなかいかない。
円の経済圏というのが、「円の国際化」という意味ならばわかります。日本人だけが円を使うというのではなくて、日本人以外の人も円を使うということですね。それと経済圏というのは大変違いますので。
――円を国際化するとは、どういうようなことでしょうか。
吉冨■通貨の役割には三つあるんです、という話から始まっちゃうんだな。我々が普通、通貨と言うと、(1)物の支払いに使う流通・支払い手段(フロー)。(2)価格表示の単位に使う。この値段は何円と。(3)そしてもう一つは、資産・負債(ストック)の売買のときに使うということです。国際的な資産の移動のときに、どの通貨を使うか。例えば日本で土地を売るときに、円で売買する。国際的に株を売るときは、今のところドルでやっているわけです。
それで、今の通貨の三つの機能というのは、民間経済がその三つの機能、政府が、また同じように三つの機能を持って、本当は六つあるんですけれども…。
そういう前提があって初めて、円の国際化というのは議論できるんですね。だから、ブロックというようなあいまいな言葉だと、ちょっと変な議論が出てきたときに、それを整理できないんですね。サイエンスというのは、整理するためにありますから。
――円の国際化への具体的な方法は……。
吉冨■外貨準備と一言で言うけれども、外貨準備というのはどういう形態かということは、皆さんあまり考えないわけです。ドルのキャッシュかと思っているわけですが、必ずしもそうではなくて、いつでも売ることができる、三カ月もののアメリカの財務省証券。それで利子を稼いでいるわけです。今だったら5%から4.5%ぐらいですか。それは、いつでも売れるわけですね。それで元本が割れないわけです。我々の定期預金みたいなものですから。
当然、これを売買するわけですね。そのときに、税金がかかると、買いたくなくなりますね。日本のそういう短期の証券には、税金がかかっていたんです。それをやめたんですね。
タイの中央銀行が、日本の短期国債を買おうとする。買うと、税金を払わされた。利子が入る。その利子が源泉で取られちゃう。それは、日本も徐々に改めてきているんですね。中央銀行が買った場合は、最初は税金をかけてたんですが、何年か前にそれをやめまして、最近は、民間が買ってもやらない。これは一つの例です。だから円の国際化には、かなり技術的なことが含まれているわけです。
――技術的な問題では、まだまだできることがあるということですね。
吉冨■ええ。ベトナムで、日本の商社が輸出する。すると、円建てで輸出してよさそうな気がするんですがドル建てですね。なぜそうなっているかというのは、慣習なんです。制度があって何か便益があって、こうしたら得だからそうなっているという感じはあまりないんですね。
これは面白い現象で、みんなが使うと一層便利になるということがあるものですから、ドルを使うからドルが便利になるんです。商社の人も、ドルをもらったほうが、はるかにいろいろと別の仕事がしやすいということはある。言語と似ていまして、普及すれば普及するほどさらに普及する。だから、英語は普及していく、日本語は普及しにくい、というのと似ているところもある。
こういう話をすると、何とか圏とか、全然違うわけです。円の国際化というのは、そういうことなんです。
アジアのためのアジアシステムを
――宮沢蔵相の三百億ドル構想はいかがですか。
吉冨■評判、ものすごくいいですね。アジアを回って聞かれるのは、宮沢構想で、日本が懐が深い経済で援助をしてくれたということへの非常に高い評価ですね。もう一つは、やはり日本経済もっとしっかりしてくれと、これは必ず出てきます。
この危機の中で、アジアの現実はこうで、こういう政策をとって、今後こうあるべきだという、いい意味でのアジアの人々自身の、「アジアの声(エイジアン・ボイス)」とでもいいましょうか、それが、知的な水準の高い形で出て来ていないんじゃないか。そこで日本がインテレクチュアルなリーダーシップをもっととるべきじゃないかという意見が強いですね。
だから、アジア危機というのは非常に面白いですね。表面的に見ていると、IMFの処方箋でかき回されちゃったという印象が強くて、欧米型資本主義、米英型資本主義、にやられたととらえる方がジャーナリストに非常に多いんですが、現実は違いますね。
アジアに一番合ったシステムを見出していく契機になっている。
――その、「アジアの声」があがるとすばらしいですね
吉冨■多くの人はそう言いますね。我々の研究課題に共感してくれる人が非常に増えていますね。そういう時代のほうが大事なんじゃないですか。新アジア主義というのかな、エイジアン・インテレクチュアル・リーダーシップと言うんですね。サイエンスに根ざしたディベートをちゃんとするためのエイジアン・リーダシップ・フォーラムというのをつくろうとしているんですけれども、これは、アジア各国にある一番優秀な研究機関を集めて、結束しようというものです。
我々のアジア開銀研究所はインターナショナル・オーガニゼーションで、ラテンアメリカとアフリカを除いた世界全体なんですね。だからアメリカ人もいる。そういう国際機関として、エイジアン・ボイスをつくるというのは、また非常に難しいんですよ。
我々は、プロジェクトの研究成果を、もちろんヘッドクォーターの総裁に説明し、理事会に説明するわけですね。理事会にはアメリカからも来ている。「エイジアン・ビューなんて何だ。アメリカン・ビューで十分じゃないか」と言われたときに、なぜエイジアン・ビューが必要か、言えなくちゃいけない。日本の議論は、今聞いている限りではあいまいですから、使えないですね。こういうあいまいさは、本当に早く打破しないと、エイジアン・リーダーシップを発揮できないんですね。議論が固まっていかないというのかな。
ただ、アナライズして固まるような分野と、それから、アナリシスは弱いが、日本のいい意味でのあいまいさを持った文化の知恵みたいなもの、この二つがある。うまくいけばそれが文化的に、ものすごく機能すると思うんですね。
しかしこの文化という暗黙知は、絶えず進歩していかなければいけない。というのは、古い暗黙知は、どんどんマニュアル化されていきコンピュータの中に組み込まれます。そうすると、暗黙知って、なくなっていくように見えますけれども、おっとどっこい、そうなればなるほど、それを超えた知恵を発揮していく仕組みが要るんです。そういう知恵でしか解けない問題があるんです。それをいつもマニュアル化していく。つまりサイエンスで解けていく範囲を広めていきながら、新しい暗黙知を前進させていかないと、暗黙知でわかっているからといって怠けていると、進歩しない暗黙知によって、暗黙知のレーゾン・デートルがなくなっちゃうんですね。それが最大の課題です。
よしとみ・まさる●アジア開発銀行研究所所長、ペンシルベニア大学特別教授
1932年生まれ。1962年経済企画庁入庁、国連経済発展計画アジア研究所講師、国際通貨基金(IMF)エコノミスト、OECD一般経済局長、同・経済統計局長、経企庁経済研究所長、調整局長等を歴任の後、現職。著書に『アメリカの大恐慌』『レーガン政策下の日本経済』『日本経済の真実―通説を超えて―』他
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