とは言えこの十年でコンベンション・ビジネスをめぐる環境は変わった。バブルの崩壊以降の不況がある。それにともなって、情報通信産業の勃興にみられるように、産業地図も大きく塗り替えられようとしている。主催者、出展者側のコスト意識もシビアになっているし、入場者もそれなりの目的を持って来場するケースが増加している。もはや草創期の大イベントのような単なる〈お祭り〉では、主催者も、出展者も、入場者も満足しなくなっているのである。
加えてコンベンション・ビジネスも大競争時代に突入している。関東地区では東京国際フォーラム、東京ビッグサイト、パシフィコ横浜などが参入し、日本各地にも同様の施設が続々と誕生している。それだけではない。海外のコンベンション施設との競争も現実化しつつある。老舗の欧米の施設はもとより、貿易と金融の振興を国策とするシンガポールなどは、当然ながら国際的な会議や展示会の誘致に力を注ぎ、それにふさわしいコンベンション施設を行政が全面的にバックアップしている。
では競争のポイントは何か。平凡なようだがそれはつまるところ費用対効果であろう。具体的にいうなら、展示会なりイベントがどれだけ具体的な引き合いや成約に結び付くかが決めてとなろう。これからのコンベンション・ビジネスの成否を分けるのは、「にぎわい以後」の「実り」をサポートするために、いかに主催者と出展者が満足するサービスを提供できるかという点にある。「顧客満足」はこの世界でもキーワードとなっている。
幕張メッセで開催されてきたさまざまな催しが、その時々の経済の状況が鮮やかに反映していたことを考えれば、コンベンション・ビジネスが、経済の縮図そのものであることは明らかであろう。規模や華やかさを競いあう時代から、より実質的な価値の提供を競いあう時代に、コンベンション・ビジネスは移行しつつあるようだ。まさしくこれは今日、日本経済が直面している課題でもある。
だから顧客満足度の向上とともに、次世代を担う産業にフォーカスすることも重要となる。その点で幕張メッセが、情報通信産業関連の催事では圧倒的な強みを発揮していることは評価されていいだろう。それに加えて環境関連、福祉・健康問題など、これからの成長分野をいかに取り込むかが、幕張メッセの戦略的テーマとなるはずだ。
世の中の変化は速く、しかもその変化は不連続である。だから顧客満足度の向上といい、成長産業の取り込みといい、いずれもこれまでの成功体験を生かしながら、さらにもう一歩飛躍した発想が求められるはずである。
十年前、それまで何もなかった土地に誕生した幕張メッセは、その点でも有利なのかも知れない。伝統というしがらみからの自由度は、他の施設とは比較にならないほど大きい。また、幕張という発展途上のエリアならではの物理的・心理的なキャパシティの大きさは、飛躍した発展を生む土壌となるはずである。
最近しばしば「顔のない日本外交」という言葉を目にするが、幕張メッセは産業にとっての外交の場と見ることもできる。そこで主催者と出展者が、より「顔の見える外交」を展開できるようになったとき、幕張メッセもまた、より以上に輪郭のくっきりした「顔」を持っていることだろう。たぶんそれが次の十年の課題となるのではないだろうか。
(1998年秋)
もりた・もゆる●フリーランスライター、(有)M&Kids代表取締役
1946年生まれ。出版社勤務の後、アドバタイジング、セールスプロモーション、パブリック・リレーションなど幅広い分野でのプランニングとコピーワークに携わる。著書に『図解&キーワードで読み解く「総合商社」』