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エコ・シティの新展望
―――循環し永続する生命都市へ


糸長浩司

「生きるための」都市デザインが
問われている


 「デジカル(デジタルカルチャー)化・ネットワーク化時代」での、インターネットによる情報の多元的な展開は、一種の「バーチャル・シティ」を我々の前に拡大してみせ、あたかも現実の都市と錯覚して、人間の活動や思考に多くの影響を及ぼす状況下にある。そんな時代に阪神・淡路大震災がおき、生身の人間の存在を熟視することが求められた。血を流し、水を求め、食料を求める生身の人間の姿がそこにあった。
 人間が生き物である限り、バーチャル・シティで生きながらえることはできない。ただ、情報の多元化は、権力的、国家的な情報の一元的支配から解放されたオルターナティブ・ネットワーク化を可能とする。道具としての情報網の多元化を獲得した都市をどう創造していくのかが重要となる。情報は手段であって、目的ではない。どのような生きる世界を創造するかが現代の緊急的課題である。
 20世紀の近代的都市計画には多くの欠陥がある。機能分化に基づく都市形成は、都市居住者の基本的ニーズを充分に満たすものではない。都市と農村の分割の中で、都市生活の中から食料生産の空間を分離し、片肺的な過剰消費型都市を形成した。阪神・淡路大震災で、単一的なライフラインに頼る近代的都市像を大きく見直すことが必要となった。居住の原点、自然との関係、身近な食料生産の場の確保、人間と人間の関係としてのコミュニティのあり方が求められている。
 20世紀当初のE・ハワードの提唱した「都市と農村の結婚」による田園都市構想は、農業、自然を取り込んだ混合的な都市像であったが、その後のニュータウン政策の中で、ベッドタウン的人工物の墓場として終焉しようとしている。
 一世紀の失敗を経た今こそ、生産→消費→廃棄の線形システムと決別し、「人間と循環系のエコ・システムとの結婚」によって、健全な生態系と、食料生産の持続性が保証された新たな都市像の確立が求められている。
 いわゆる「エコ・シティ」――都市のなかに緑の帯や風の道を形成し、生態系を取り込んだ都市イメージ――を超えた新たな都市像として、「パーマカルチャー・シティ」論がある。



エコ・シティを超えた
「パーマカルチャー・シティ」へ


 パーマカルチャーとは、豪州の生物学者ビル・モリソン達による言葉で、パーマネント(永続的)、アグリカルチャー(農業)、カルチャー(文化)の複合語である。近代的な機能分化された暮らしを見直し、食と住に関する暮らしの自給性と持続性を獲得していくための統合的デザイン論である。
 そのデザイン手法は、あるもののアウトプットが他のもののインプットとなるようなつながりのある関係の構築、個々の空間要素に多機能性をもたせること、水や食料等の重要な要素は複数の方法で確保されること等、関係性と多機能性を重視する。また、対象地域の自然特徴を読みとり、動植物や自然エネルギーを有効に活用した適正技術の応用や、自然遷移の中で植物を混栽的に育て、多様な食料を収穫するシステム等が提唱される。
 その運動は、豪州を中心として、米国や英国等の先進国での自給自足型の居住地づくりだけでなく、ネパール、ベトナム、アフリカの後進国でのNPO活動も進められ、地域自立の運動も展開されている。
 パーマカルチャーの展開の帰結する持続的生命都市像が、パーマカルチャー・シティである。都市の再生の中心的テーマは、食料生産の場としての生態系の新たな創造であり、小領域での循環型で自給自立型のコミュニティ「エコビレッジ」(都市、農村を問わず)の連結によって織りなされる都市像である。
 主体としての人間の社会的、経済的な活動システム単位としてエコビレッジを据え直し、人間の基本的生活ニーズ(新鮮な食べ物、新鮮な空気、自然とのふれあい、健康的な建物、親密な人間関係、精神的な癒やし等)を、身近な場で持続的に確保するための空間単位を創造することが目的とされる。



都市を「食べられる森」として
再生する


 パーマカルチャーの都市での実践は、都市の中のあらゆる空間を「食べられるエコ・システム化」する試みである。住宅のガーデン、ベランダ、屋上、壁面、歩道、道路、空き地、街角広場、校庭、公園、開発未利用地等のあらゆる場に、農産物を生産できる新たな生態系を創造することである。
 個人的な生産活動だけでなく、コミュニティでの共同的生産活動によるコミュニティ・ガーデン(公共菜園)やシティ・ファーム(都市農園)を創造することにより、都市のコミュニティ、ヒューマニティの再生をも可能とする。
 パーマカルチャーの新しさは、「森林的採取的食料生産システム」に基礎を置く食料生産と環境形成の共生の考え方、「フード・フォーレスト(食べられる森)」にある。生態系の特徴である〈生産者―消費者―分解者〉の循環的な三角関係を、人間の身近な暮らしの場で創造することにより、世界的な食料問題と環境問題の両面を同時に解決する方策を示す。自然・生物的エネルギーを豊かに備えた、「富める生態系」のシステムづくりを人間が意識的に行うことにより、都市を「食べられる森」として再生し、人間と自然生態系の共生関係をより持続させようとする試みである。
 阪神・淡路大震災の教訓を受けた、新たな都市の展開の主要課題は、NPO等による市民の自主的な活動によって、「食べられる森」を創造することである。首都圏の再生を考えるときに、東京湾岸域に海水域と共生した「食べられる森」が出現することが、21世紀の循環し永続する生命都市の創造の端緒となることを確信して筆を置く。


いとなが・こうじ●日本大学生物資源科学部生物環境工学科助教授、パーマカルチャー・センター・ジャパン代表
1951年生まれ。専門は建築計画、農村・都市計画。パーマ・カルチャー・センター・ジャパン(NPO)の発起人として、日本型の永続的な暮らしと地域計画理論を実践的に研究。官庁・自治体の委員として行政指導にも数多く参加。編著に『地域のデザイン』、共著に『景観づくりむらづくり』『日本型クラインガルテン実現へのビジョン』『「農」はいつでもワーダーランド』ほか

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